御遺訓
徳川家康公について
東照公御遺訓
生涯をかけて平和な国づくりを成し遂げられた徳川家康公の理念や理想の精髄は「人の一生は」ではじまる「東照公御遺訓」として今日に伝えられております。
御遺訓に示された人生訓は、正にその御生涯から生まれたものであり、徳川家康公の御精神そのものであると言えるでしょう。その内容はごく簡単な言葉でありますが、実行はなかなか難しいものであります。しかし、徳川家康公はこの御遺訓通りの御生涯を歩まれ世界に類のない長期平和の礎を築かれたのです。
東照公御遺訓
人の一生は重荷を負て遠き
道をゆくが如し いそぐべからず
不自由を常とおもへば不足なし
こころに望おこらば困窮したる
時を思ひ出すべし 堪忍は無事
長久の基 いかりは敵とおもへ
勝事ばかり知てまくる事をしら
ざれば害其身にいたる おのれ
を責て人をせむるな 及ばざる
は過たるよりまされり
今日の御遺訓
東照公御遺訓を毎日一節ずつご紹介いたします。
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- 身を全うしてこそ事の本をとぐるなれば
望ある身は一日の命をも大切の事なり -
人は、身体が健康であってこそ使命を達成できるものであるから大望を抱いている者は一日の生命をも大切にしなければならない。
- 身を全うしてこそ事の本をとぐるなれば
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- 我のために悪き事は人の為にも悪しきぞ
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自分のためにならぬことは人のためにもならないと思って、そのようなことはしてはならない。
よい事は、人にもおこなってやるがよい、これが人助けだ。
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- 何事も我身に競べてなすときは
ひがむことなし -
何事も自分の才能を標準にして考えれば他人の成功をうらやむ事はない。
成功した人は立派な才能があったからだ。成功を望む者は充分才能を働かし一段と努力を
重ねなければならない。
- 何事も我身に競べてなすときは
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- 慈悲を万の根源と知れ
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慈悲の心を人間生出の根元と知るがよい。この心掛けで行けば全ての事がうまく解決して
いくものぞ。この心は平和の根本で、神心仏心であるぞ。
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- 人間は生死不定にて今日ある身が
明日は知らぬぞ 此の心をふまえよ -
人の死は定めがない 今日元気であっても明日の生命は判らない。
此の事をよく心得て明日は無いものと思って今日一日を一生懸命に働くがよいぞ。
- 人間は生死不定にて今日ある身が
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- 忠信の根元は私を去り己が智恵を磨き
よく人の善悪邪正を弁え知るべし -
毎日の行いにうそ偽りのないまことの境地を達するには先ず私心を去って才知を磨き、
又よく他人の善悪邪正を知りつくすことである。まことは人間生活の根本であり、社会が保たれるもとである。
- 忠信の根元は私を去り己が智恵を磨き
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- 凡そ慈悲心は草木の根ぞ
人の和は花実ぞ -
慈悲は草木で云えならば根、幹をささえ、枝葉を繁らせ更に花や実を成らせる。
世の中で最も大切な人の和は、慈悲心が根で実った花実である。何事も人の和が無ければ
出来ない。和の根本は慈悲心にある事を知れよ。
- 凡そ慈悲心は草木の根ぞ
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- よく我身を省み
我心にて 心に意見せよ -
人間は自己反省をしなければ完成はむずかしい。自分で自分を省み、悪いことは自ら直して行けよ、立派な人間になるぞ。何事にも反省は大事だ。
- よく我身を省み
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- 先ず己が好む所を避けて
己が嫌う所を務むべきこと -
自己を完成するには自分の得意とする所はさけて不得手な所を得意とする様に努力するがよい。
か様にして立派な人格者となるものだ。
- 先ず己が好む所を避けて
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- 神を尊崇し 身を琢磨し
生涯怠るべからず -
常に神を敬いその御守護を得て更に心の修行を一生涯怠ってはならない。
かくしてこそ立派な人となれるのだ。常に心の依り所を持つ事が大事なことだ。
- 神を尊崇し 身を琢磨し
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- 父子の中睦からざるは人倫の第一の僻事なり
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人は父子の間が一番むつまじくなくてはならない。これは人間のふむ第一の道であるから、
これがうまく行けば一家は平和で楽しく自然繁栄するものである。父子不和の家は衰えて
遂には亡びてしまうであろう、よく心得よ。
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- 都て人は始めが大事なり
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何事も初めが大切である。出発を誤ると一生取り返しのつかない事になる。
急いでは事を仕損ずる。初めが肝要ぞ。初めに慎重に考えて着手するがよい。
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- 人には向ふざすといふ事なければ
其の心掛けも自から薄くなるなり -
人間には目標というものがなければ努力する気力も薄くなって成功し難い。
故に高い目標を掲げて其の達成に努力するがよい。
- 人には向ふざすといふ事なければ
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- 天下太平治世長久は 上たる人の慈悲にあるぞ
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世の中が長く平和である事は政治を行う者が国民を愛する心の有無によるものである。
故に上に立つものはこのことをよく心得て政治を行うがよい。
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- 天下を治むる法は賞罰の二つぞ
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政治を行う人々よ、世の中をうまく治めて行くには善きは賞し、悪きは罰する。
この二つの事が根本であるぞよ。
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- 常に天道を恐れる事を以て第一の慎みとする
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人間の第一の慎みは自分の行いが天の道にそむいているか、どうかという事で、
この慎みを怠る時は天罰の有る事を思わなければならない。
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- 味噌は擂木でするものである
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味噌を擂るにはその擂りための擂木を使うのが一番よろしい。他の物で代用してはうまくは行かない。物には各使命があるのだ。この道理をわきまへよ。
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- 智恵あるものは己れ一人にで智恵を用ゆるべからず
必ず仲間へも譲りて誠信を尽すべし -
才能を独占せず広く同志へも分けて活用する様に誠意を示しなさい、かくする事によって
お互い向上して行くのが人の道である。
- 智恵あるものは己れ一人にで智恵を用ゆるべからず
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- 人の基は慈悲あるべきなり
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人の本性の中には慈悲の心即ち思いやりの心がなくてはならぬ。此の心の無いものは人間ではない。
世の中は助けたり、助けられたりして行くものだから。
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- 人は覚悟が大事なり
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何事をなすにも覚悟が大事だ。覚悟はよく考えた上できめる、かくと定めた上は如何なる事が
あっても断行せよ、かくすれば万事うまく行くものだ。
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- 人は凡てに賢からず 一事に愚にして一事に優れたるものあり
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人は万能ではない、或る事には長じているが他のことには劣っている事もある故にお互い
助け合って行くべきものだ。これがあって世の中は進歩するものだ。
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- 人は嘘らしき誠を申すとも誠らしき嘘は語るべからず
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人は誠実が大切であるから嘘らしい真実は語っても真実の様な嘘は語ってはならない。
それは害はあっても益のない偽り事だからよく心得ねばならぬ。
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- 人の一生は重荷を負ひて遠き道を行くが如し 急ぐべからず
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人の一生は重い荷物を背負って遠い道のりを行く様なものだ、よくあたりに気を配って
一歩一歩ふみしめて行け、急ぐと失敗するから急がぬがよい。
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- 不自由を常と思へば不足なし
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人の欲望には切りがないものだ、不充分な現在に我慢するならば不足だと云って
不平を言う事はない、何事もやや控目にするがよい。
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- 心に望みおこらば困窮したる時を思い出すべし
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現在に満足せず、これ以上望む欲が起きたときは自分が困った時の事を思い出すがよい。
余り大きな望みは失敗のもとであるからよく心得よ。
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- 堪忍は無事長久の基
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色々の事に出合って、腹立たしい事も度々あるが怒っては駄目だ、
ならぬ堪忍をするのが堪忍と心得て我慢しなさい。これが身を保つ第一の策だ、
この事を心得て世渡りをしていけば永く身は安全だ。
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- いかりは敵と思へ
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怒りたい事も時々あるが、決しておこるな、いかりは百失あっても一得もないのみならず
遂には我が身を亡ぼすものだ、修養を積んで怒らぬ様にするのが身を大切にする事だ
長生きして社会公共に貢献するがよい。
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- 勝つことばかり知って
負くることを知らざれば害その身にいたる -
人生は勝負の社会ともいえる。常に勝ってばかりいて負けることを知らなければ心驕って
身を亡ぼすに至るものだ。負けるのは勝ちの真理を知るがよい。
- 勝つことばかり知って
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- おのれを責めて 人を責むるな
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何事も先ず自分を責める事を厳にして、他人は責めるには寛容であれ。常にか様に努力して
行くならば円満な人格者となり人からも尊敬される。
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- 及ばざるは過ぎたるよりまされり
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丁度よいという事はなかなか難しいものである。そこでまだ不充分だということは、やり過ぎたよりもよい。これは今後努力によって解決することが出来るからだ、勤勉努力はものを完成する基で
あることを心得るがよい。
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- 鷹は空を飛びて能あり 鵜は水に入りて能あり
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鷹は空を飛ぶことが、鵜は水にくぐることが得意である。人間も人それぞれ得意とすることが
違っている。自分の長所を知ってこれを伸ばし生きて行くことが肝要である。